刑事事件

万引き依存症とは?その原因と治療方法

万引きをする人の中には、万引きをやめたくてもやめられないといった人が存在します。
その人は、「万引き依存症(クレプトマニア)」という精神疾患に罹患している可能性があります。

万引き依存症とは一体どのような精神疾患なのでしょうか?

1.そもそも万引きとは

万引きとは、お店にある商品を盗むことを言います。もっとも、万引き罪というのは刑法上存在しません。それでは何罪で処罰されるのかというと、万引きは窃盗罪で処罰されることになります。

刑法235条「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」

また、過去10年で、窃盗罪で6月以上の懲役刑を3回以上受けた(刑の執行が免除された場合も含む)者が、常習として窃盗を行った場合は、常習窃盗罪で処罰されます(盗犯等の防止及び処分に関する法律3条)。常習窃盗は3年以上の有期懲役刑に処されます。

2.万引きを繰り返す原因

では、万引きを行った人が、再度万引きをしてしまう理由は一体何なのでしょうか。

(1) スリル

万引きが発覚すると捕まってしまいます。
そこで、万引きすることによる罪悪感、バレて捕まるかもしれないという恐怖心・緊張感がスリルとなり、万引きを繰り返してしまいます。

(2) 認知症

認知症に罹った方が、万引きが悪いことであるとの認識を失ったり、行動を制御できなくなったりして、何度も万引きを行ってしまうことがあります。
また、場合によっては、認知症を装って万引きを繰り返すケースもあります。

(3) 日々のストレス

日常のストレスが蓄積され、その発散方法として万引きが行われることがあります。

また、摂食障害やアルコール依存症など、ストレスが引き起こす病を併発していることがあります。

(4) 経済的事情

日々の生活費に困窮して、万引きをしてしまうことです。
また、現在はお金があっても、少し楽な生活をしたいと思い、節約目的で万引きを行ってしまう場合もあります。

(5) 罪悪感の減少

万引きを何度も繰り返したせいで、犯罪を犯したことで生じる罪悪感が減少し、やめられなくなってしまうこともあります。

また、まだ小さい子供の場合、万引きの罪について理解できずに、注意を受けても再度万引きを行ってしまいます。

3.万引き依存症(クレプトマニア)とは

万引きをやめたいのにやめられない方は、クレプトマニアという精神疾患の可能性があります。「窃盗症」、「窃盗癖」、「病的窃盗」などとも訳されます。

クレプトマニアとは、万引き行為に対する衝動を抑えることができずに万引きを繰り返してしまう病気です。

クレプトマニアには経済的な利益やスリルによる刺激等を目的としないにもかかわらず、万引き行為をしてしまう例もあります。盗品の内容や価値は重要でなく、盗んだものをすぐに捨ててしまう例もあるそうです。

クレプトマニアの診断基準

日本において馴染みのないクレプトマニアですが、世界的には広く認知されている病気です。例えば、アメリカでは窃盗を繰り返す人がクレプトマニアか否かを判断する基準が存在します。
 
DSM-5におけるクレプトマニア診断マニュアル(※)
①個人的に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗ろうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
②窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり
③窃盗に及ぶときの快感、満足、または解放感
④その盗みは、怒りまたは報復を表現するためのものではなく、妄想または幻覚への反応でもない
⑤その盗みは、素行症、躁病エピソード、または反社会性パーソナリティ障害ではうまく説明されない。
※DSM-5とは、米国精神医学会による「精神疾患の分類と診断の手引」(2013年版)であり参考になります。もっとも、この米国の学会の基準が、日本の実情にそのままあてはまるかどうかは議論があります。

4.万引き依存症の治療方法

万引きを繰り返していると、裁判官の心証に悪く、量刑において厳しい判断が下されます。
また、先述したように、万引きの常習犯(※)が、3回を超えて、6月以上の懲役刑に処されると、常習累犯窃盗となり、窃盗罪より重い刑罰に科せられます。

※常習犯とは、その犯罪を行う性癖がある者が、その性癖の発現として犯行をおこなった犯罪をいいます。

そして、何より、万引き依存症を克服できないと、何度も逮捕され刑務所に入ることになります。罪を重ねるごとに刑期は長くなりますから、一生の大半を刑務所で過ごす羽目になりかねません。

そのため、万引き依存症の方は、これを早期に克服しなければなりません。

以下では、万引き依存症を治療する方法を紹介します。

(1) 病院に通う

病院で万引き依存症を克服するための治療を受けることができます。

まず、医師によるカウンセリングで、次の各要素を洗い出します。

  • 窃盗癖の症状
  • 成育歴(虐待・育児放棄・両親の離婚などがある「機能不全家庭」で成長したケースが多いため)
  • 発症の背景(男性の職場ストレス、女性の家庭内ストレスなど)
  • 合併疾患(うつ病・摂食障害・自傷行為・アルコールや薬物依存など)
  • その他の関連する因子

次に、認知行動療法によって、窃盗に走ってしまう「認知の歪み」があることを本人に自覚してもらいます。

そのうえで、窃盗衝動が起きた際に万引きを回避するための思考方法、行動ルールを学びます。

「認知の歪み」とは、ある状況に遭遇したときに頭にのぼる思考パターン(物事のとらえ方、考え方)の偏りなどから、犯罪を含む様々な問題行動に出てしまうことを指します。

例えば、夫婦の不和で「さみしさ」を感じているときに、万引き行為を成功させると満足感を得られ、「さみしさ」を紛らわすことができるという症例があります。
このケースでは、「さみしい」感情を抱いたときに、それを解消するための行為として、万引き以外の解消方法もたくさんあることを認識させ、その解消方法を行動に移せるようにするのです。

また、同じ障害を抱えた人とのグループミーティングによって、自分だけの疾患ではないことを知り、自己の問題性を再確認し、他者の克服方法を参考にすることが可能となります。もちろん、共通の課題に立ち向かう仲間を得る効果も無視できません。

(2) 日々の習慣を変える

万引き依存症を克服するには、病院に通うだけでなく、日常生活の習慣を変えることも重要です。

例えば、お店に行くのをなるべく避けることです。とても単純なことですが、万引きが可能な環境に行かなければ、万引きをすることは不可能です。
最近では、ネットで多くのものが買えるので、わざわざ店舗に行かなくても、必要なものを取り揃えることは可能でしょう。

また、万が一、お店に行く必要がある場合は、一人で行かずに家族や事情を知る知人を連れていくことが効果的です。

それ以外でも、鞄を持って行かない、ポケットが無い服を着るなども、万引きをやめる方法として考えられます。

このように、自分の疾患を常に自覚して、ひとつひとつの小さな工夫を積み重ねることが、クレプトマニアの克服につながります。

5.万引き依存症の弁護方針

万引き依存症か否かに関わらず、万引きをした場合は被害者との示談を成立させる事が重要です。
検察官は諸般の事情を考慮して起訴するか否かを決定しますが、示談が成立していることで、起訴判断を控える可能性が高まります。

店舗(チェーン店など)によっては、示談交渉に応じないという方針を採っていることもあります。その場合は、贖罪寄付(窃盗の被害額を寄付して犯罪被害者の家族などのために役立ててもらうこと)をすることになります。

仮に起訴されて裁判になった場合は、万引き依存症は病気であり、被告人による今後の万引きを防止するために必要なのは刑罰ではなく、治療であると主張してゆくことになります。

ただし、これは決して「病気だから刑を軽くするべきだ」という意味ではありません。病気であろうがなかろうが、万引きは犯罪です。病気を理由に情状酌量を求めることは間違った弁護方針です。

そうではなく、被告人がクレプトマニアを克服するために真剣に努力しているという事実を主張することが重要です。それが真摯な反省と再犯しない決意を示すだけでなく、実際の再犯防止にもつながるからです。

6.まとめ

クレプトマニアは、決して自己の甘えではなく、精神疾患です。
万引きがやめられずに悩んでいる方は、一人で悩まず、一度弁護士や医師にご相談ください。

泉総合法律事務所では、クレプトマニアで困っているという方やそのご家族からのご相談も多く受け、弁護を行った実績がございます。
どうぞお早めに、当事務所の無料相談をご利用いただければと思います。

【参考文献】
・平成26年版 犯罪白書窃盗癖の問題性を有する保護観察対象者の処遇
・赤城高原ホスピタル「窃盗症に関するFAQ、専門家向け研修用
・「入門犯罪心理学」原田隆之・筑摩書房55頁

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