暴行と傷害の違いとは?
酔っぱらって他人と口論し、暴力をふるってしまったとします。この場合、暴行罪や傷害罪が成立する可能性があります。
ここまでは皆さんご存知でしょうが、暴行罪と傷害罪の違いまで知っている方は少ないのではないでしょうか。
暴行罪と傷害罪には、大きな違いがあります。ここでは、暴行罪と傷害罪の違いを詳しく説明します。
このコラムの目次
1.暴行罪と傷害罪
まず、暴行罪と傷害罪の内容について確認しましょう。
(1) 暴行罪
暴行罪は、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に成立します(刑法208条)。
「暴行」とは、人に対する不法な有形力(物理的な力)の行使を言います。例えば、人を殴る蹴る行為や、胸倉をつかむ行為、食塩や水をふりかける行為もこれに当たります。
更に、有形力の行使が相手方の身体に接触しなくても暴行罪が成立することがあります。判例の中には、狭い室内において、日本刀を威嚇のために振り回した行為や足元の地面を狙って石を投げつけた行為が「暴行」に当たるとされたものがあります。
なお、「人を傷害するに至らなかったとき」とあるように、人に暴行を行い「傷害」を負わせた場合は、暴行罪ではなく、傷害罪が成立します。
(2) 傷害罪
傷害罪は、「人の身体を傷害した」場合に成立します(刑法204条)。
傷害とは、人の健康状態を悪化させることを言います。
例えば、殴って他人に全治1週間の打撲・捻挫を負わせた場合が挙げられます。わざと風邪等の病気を移した場合もこれに当たる場合があります(もっとも、これを裁判で証明するのは非常に困難ですが、実際に、性病を感染させる懸念のあることを認識しながら女性と性交して病毒を感染させたケースで傷害罪を認めた判例があります。※最高裁昭和27年6月6日判決)
2.暴行罪と傷害罪の具体的な違い
暴行罪と傷害罪は、傷害発生の有無以外にも、以下の点で異なります。
①暴行の有無
先述の通り、暴行罪の成立には暴行行為が必須です。つまり、有形力の行使がなければ、暴行罪は成立しません。
他方、暴行行為がなくても傷害罪が成立する場合があります。
例えば、迷惑電話をかけ続けて相手をノイローゼにした場合、暴行行為は行われていないですが、相手の健康状態を悪化させています。そのため、この場合も傷害罪が成立することがあります。
②刑罰の重さ
暴行罪を犯した者は、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処されます。
他方、傷害罪を犯した者は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。
このように、暴行罪と傷害罪では、刑罰の重さが大きく異なります。
③示談金の額
暴行罪と傷害罪では、示談(後述)における示談金の額も大きく異なります。
示談金は、被害者の財産的損害(壊れた物や服の価額、被害者が支出した金額等)と精神的損害(慰謝料)からなります。
暴行罪の場合はケガをさせていないので、慰謝料を支払うことになります。
他方、傷害罪の場合、加えて被害者の治療費も支払わなければなりません。全治一週間程度の怪我なら比較的低額かもしれませんが、骨折等の大怪我を負わせてしまった場合は、高額の治療費がかかります。
もちろん、暴行や傷害の際に被害者の衣服を破いたり、眼鏡を壊したりなどの器物損壊行為を伴えば、別途、器物損壊罪(刑法261条)も成立したうえ、その損害も賠償しなくてはならず、示談金に加算することになります。
暴行罪(刑法208条) | 傷害罪(刑法204条) | |
---|---|---|
暴行の有無 | あり | 問わない |
傷害の有無 | なし | あり |
刑罰の重さ | 2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 | 15年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
示談金の額 | 財産的損害(壊した物)・慰謝料 | 財産的損害(壊した物・治療費)・慰謝料 |
3.もし暴行罪・傷害罪を犯してしまったら
暴行罪や傷害罪を犯してしまったら、逮捕・起訴され有罪判決が出される可能性があります。特に傷害罪の場合は、最長で懲役15年という非常に重い判決が下される可能性があります。
有罪判決を免れて前科を避けるためには、不起訴処分を得る必要があります。
検察官による起訴処分を回避するためには、示談を成立させることが非常に重要です。
(1) 被害者と示談をして起訴を回避
示談とは、加害者が示談金を支払う代わりに被害者が犯罪事実を許すという当事者間の合意を言います。
検察官は、被害の程度、被疑者の反省や前科の有無、被害者の処罰感情の有無等を考慮して、被疑者を起訴するか否かを決定します。
被害者と示談が成立していることは、被疑者にとって有利な事情となるのです。示談金の支払で被害が金銭的に補てんされ、被害者の処罰感情も失われたか薄まっていると評価されるからです。
もっとも、示談はあくまでも考慮される事情のひとつですから、被害が甚大な場合や被疑者に前科がある場合などは、被害者と示談が成立していても、起訴されることもあります。
しかし、示談が成立していると、たとえ起訴されてしまったとしても、裁判における量刑判断においても有利に働き、刑が軽くなること、執行猶予付きの判決を得られることが期待できます。
(2) 示談交渉は弁護士にお任せ
示談交渉は、刑事弁護のプロである弁護士に依頼するのが得策です。それは以下の理由によります。
①弁護士は示談の方法を熟知している
一般の方は、示談交渉の方法を詳しく知りませんから、被疑者自らや被疑者の家族や知人らが示談交渉を行うのは非常に困難です。
他方、弁護士は示談開始から成立までの流れやポイントについて熟知していますので、弁護士に示談交渉をまかせれば安心です。
②当事者同士で再度争いが生じるのを避ける
暴行・傷害の当事者同士やその関係者が顔を合わせて交渉をすることは、おすすめできません。
感情的になったり、双方ともに法的知識がないために示談内容で紛糾したり、報復が行われたりする危険があるからです。
弁護士が入ることで、事件を専門家の客観的な目でみてもらい、冷静に交渉を進めてもらうことが可能となります。
③適切な額で示談を成立
示談においては、示談金を被害者に支払います。
示談金の相場は、暴行罪においては10~20万円程度です。傷害罪においてはそれ以上かかると言われますが、具体的事情、特に怪我の程度によって、示談金の額は大きく異なります。怪我が重い場合は、それだけ治療費もかかりますし、被害者が求める慰謝料も高額になります。
もっとも、法的に加害者が支払い義務を負わなければならないのは、被害者の損害に応じた賠償金であって、それ以上のものを被害者に支払わなければならないというものではありません。
場合によっては、被害者が不当に高額な示談金を求めることがあるのですが、示談を成立させたいがため、安易にこれを受け入れてしまう方がいます。
もちろん、事案によっては、たとえ不当に高額な要求でも、これに応じて示談を成立させてしまう方が良い場合もありますが、弁護士が相場の金額や過去の事例を示すなどして、粘り強く交渉をすることで妥当な金額で納得してもらえる場合も多いのです。
適切な金額で示談するためにも弁護士に示談を依頼すべきです。
4.暴力事件を起こしてしまったらお早めに弁護士へ
暴行罪と傷害罪の違いについておわかりいただけたでしょうか。
特に傷害罪が成立した場合は、非常に重い刑罰が科される恐れがあります。これを回避するために、示談交渉は弁護士に依頼することをお勧めします。
暴行・傷害などの暴力事件を起こしてしまいお悩みの方は、刑事弁護実績豊富な泉総合法律事務所の弁護士に一度ご相談いただければと思います。
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