学生でも自己破産できる?
「学生ローンが返しきれなくなってしまった」「生活費や、サークルの飲み会の費用にカードを使いすぎてしまい、気づいた時には借金が大量に…」
このように、学生が多額の借金を負ってしまうケースはしばしば見受けられます。
借金で生活が立ち行かなくなってしまった際には、自己破産をすれば今ある借金は全てなくなります。
しかし、「学生でも自己破産ってできるの?」「親にバレるのではないか?」「就職に影響があるんじゃないか?」など、様々な不安があり、踏み出せない学生の方は多いです。
この記事では、自己破産に必要な条件と、実際に学生が自己破産をしたら生活にどんな影響があるのかを解説していきます。
このコラムの目次
1.自己破産に年齢制限はない
自己破産を利用するのに必要な主な条件として、次の2点があげられます。
- 自己破産の手続を開始してもらう条件として、裁判所に借金が返せない状態にあると認めてもらう(「支払い不能」状態にある)こと
- 免責してもらう(=借金をゼロにしてもらう)条件として、「免責不許可事由」に該当しないこと
しかし、自己破産には年齢による制限はありませんので、学生でも問題なく利用できます。
ただし、学生に限らず未成年の方が自己破産をしようとする場合は、注意が必要です(次の段落で詳しく解説していきます)。
ギャンブル等の浪費による借金や、特定の債務の存在を隠すなど、裁判所の自己破産手続きに、非協力的で不誠実な行動をした場合は、「免責不許可事由」というものに該当するおそれがあります。該当してしまうと、債務の免責は許可されません。ただし、免責不許可事由に該当してしまっても、本人の反省があるようであれば、その内容次第で、裁判所の裁量によって免責が許可されることもあります(裁量免責)。諦めずに弁護士に相談してみてください。
免責不許可事由について詳しく知りたい方は下記のコラムをご覧ください。
参考:自己破産ができない?免責不許可事由とは
2.学生(未成年)の借金問題
では、未成年が自己破産をする場合、どのような点に注意するべきなのでしょうか。
まず第1に、本当に自己破産をする必要があるのかを検討しなくてはなりません。
(1) 未成年の借金は取り消すことができる
民法では、判断能力の未熟な未成年を保護するために、法定代理人(多くは親権者である親)の同意を得ない「法律行為」は取り消すことができるとしています(民法5条1項、2項)。
「法律行為」とは、法的な効力を発生させる行為のことで、借金をする金銭消費貸借契約や、代金支払義務を負う商品購入契約なども、法律行為のひとつです。
したがって、未成年が借金をしたり、商品を購入したりしても、親の同意を得ていない限り、後から取り消すことができるのです。
取り消された法律行為は、法的に、最初からなかったことになります(民法121条本文)。
もっとも、最初からなかったことになると言っても、金銭消費貸借契約ではお金を受け取っていますし、商品購入契約では品物を受け取っています。
したがって、そのお金は貸主に、商品は売主に返還することが当然です(民法703条)。
しかし、手元に、お金や商品が残っていないのに、これを返還しなくてはならないとすれば、実際上は、取り消すことをためらってしまい、未成年の保護は図れません。
そこで、未成年の法律行為を取り消した場合は、「現存利益」だけを返還すれば良いとされています(民法121条但書)。
「現存利益」とは、残っている利益という意味であり、たとえば借りたお金をゲームセンターなどの遊びに使ってしまった場合は、現存利益はなく、お金を返す必要はありません。
しかし、借りたお金を生活費に充てたり、他の借金の返済に充てたりしたときは、自分のもともとの財産の減少を免れたという利益が残っているので、貸主に返済する必要があると理解されています(大審院昭和7年10月26日判決)。
例えば、80万円の借金をして、その全てを生活費に充てると、80万円全額を返還しなければいけません(利息は不要です)。しかし、80万円の借金をして50万円を遊興費として使ったならば、返金する必要があるのは残りの30万円になります。
このように未成年の債務は、そもそも取消によって返済義務を免れることができることがあるので、本当に自己破産が必要かどうか、弁護士に相談してみることをお勧めします。
(2) 未成年でも取り消せない借金
(1)で、未成年が親の同意なく負担した借金は取り消すことができると説明しました。しかし、全ての借金がそうなるわけではありません。
未成年の借金が取り消せない例外について、1つずつ解説していきます。
①親の同意を得て負担した借金
未成年者が親の同意を得て負担した借金は、取り消すことができません。
(1)にもある通り、未成年者は法定代理人(この場合は親)の同意を得ない法律行為は取り消せますが、逆に言えば、親の同意を得た法律行為は取り消せないのです。
②成年と同様の扱いをされる場合
未成年でも、結婚すると成年となったものとして取り扱われます(民法753条)。これを「婚姻による成年擬制」と言います。(※)
※ただし、この制度は民法改正により2022(令和4)年4月1日に廃止となります。
結婚後も同意なき法律行為が取り消せるとしたままでは、独立した世帯による経済活動に支障を生じること等を理由とします。
なお、その後、離婚した時点で未成年であった場合、成年擬制の取扱いを受け続けるかどうか議論があります。学説の通説は、成年擬制の取扱いが継続すると理解していますが、戸籍の実務は異なります(昭和31年2月18日民(二)発60号回答・基本法コンメンタール「親族(第5版)」日本評論社・68頁)。
また、未成年でも、親など法定代理人から一定の営業の許可を得た場合は、その営業の範囲内では成年と同様に取り扱われ(民法6条1項)、その営業に関する法律行為は取り消すことができません。
したがって、結婚後に負担した債務、許可された営業に関わる債務は、取り消すことができないので、自己破産を検討することになります。
③詐術を用いて契約した場合
未成年が成年であると嘘をついて行った法律行為は、相手方を保護する見地から、親などの同意を得ていない場合でも、取り消すことはできません(民法21条)。
したがって、成年だと嘘をついて負担することになった債務は取り消せず、返済できなければ、自己破産を検討することになります。
なお、取り消せないのは、相手に成年であると誤信させた場合ですので、「未成年だが親の同意がある」と嘘をついた場合は、取り消すことが可能です。
ただし、このような積極的な嘘は、詐欺として不法行為(民法709条)に該当するので、未成年であっても損害賠償を請求される可能性があります。
(3) 未成年者が自己破産を行う場合の注意点
取り消せない借金は、当然ながら返済義務があります。しかし、これをどうしても返済できない場合は、未成年者でも自己破産を検討することになるでしょう。
しかし、未成年者が親にバレずに自己破産を行うのは不可能と考えてください。
何故なら、未成年が自分で自己破産の申立てを行うことは許されておらず、必ず、親など法定代理人が申立てをしなくてはならないとされているからです(破産法13条、民事訴訟法31条)。
それなら、弁護士に依頼したら?と思うかも知れません。
しかし、未成年が自分で申立てをできない以上、未成年が弁護士に依頼して代理人として破産申立てを行ってもらうこともできません。
未成年の自己破産は、親など法定代理人が行うものなので、弁護士は、親など法定代理人の、そのまた代理人として破産申立て手続をするからです。
したがって、弁護士は未成年本人からではなく、親などから依頼を受け、親と委任契約を結ぶことになるのです。
成人済みの学生が親に内緒で自己破産をすることは不可能ではありませんが、未成年の学生の場合は不可能なので、しっかりと親に事情を説明する必要があるのです。
3.実際に学生が自己破産したらどうなるか
では、実際に学生(成年・未成年問わず)が自己破産すると、その後どうなるのでしょうか?
細かい影響について説明していきます。
(1) 学校や友人に知られることはない
自己破産の事実を学校に知られることはありませんし、学校関係者に話す必要もありません。また、万が一知られたからといって、退学処分になることもありません。
友人にも、自ら相談等をしない限り、自己破産を知られることはないでしょう。
(2) ブラックリストに載る
自己破産をすると、信用情報機関のブラックリストに5~10年間載ることになります。その期間中は、新しくクレジットカードを作ったり、借入をしたりすることはできません。
とはいえ、一定期間クレジットカードを利用できない・借入ができないということは、再び借金生活に陥ってしまうリスクを抑制することができるため、生活の再建のチャンスと言えるでしょう。
(3) 将来の就職に影響はない
自己破産したことを履歴書などに書く必要はありませんので、今後の就職活動への影響もないと考えて良いです。
しかし、銀行などの金融機関に勤めようとしている場合は、自己破産していないかどうかを調べられる可能性もあります。
銀行は先述のブラックリストを参照しているため、そこから自己破産の事実がバレてしまいます。
銀行系に勤めようと考えている学生は注意が必要でしょう。
(4) 家賃を払っている限り賃貸物件を追い出される事はない
自己破産を行うと、債務者名義の価値が大きな財産は処分されてしまいます。
高価値な財産と言えば住宅(マイホーム)が想像できますが、学生の方で自分名義のマイホームを持っているという方はいないでしょうから、この点は心配いりません。
実家暮らしの場合でも、その実家を追い出される・処分されるということはありません(処分されるのはあくまで債務者名義の財産のみなので、家族名義の持ち家には影響は及びません)。
[参考記事]
自己破産をすることによる家族への影響
また、賃貸住まいをしている場合でも、家賃をしっかりと支払っているのであれば、自己破産を原因にして立ち退きを要請されることはありません。
そもそも滞納家賃がない限り、大家や管理会社に自己破産の事実を知られることの方が稀でしょう。
ただし、破産前の家賃を滞納している場合は、立ち退きを要請されてしまう可能性もありますのでご注意ください。
(5) 高価な財産やローンの残ったバイク等は回収される可能性がある
自己破産を行うと、債務者名義の価値が大きな財産は処分されてしまうと先述しました。
具体的な運用は裁判所によって異なりますが、通常、家具家財などの生活必需品や、99万円以下の現金を除いた多くの財産が処分されることになります。
例えば、20万円以上の価値があるとされた財産は処分されます。
中古市場での売却価格が20万円以上のバイクや車などは処分されてしまうでしょう。
4.学生の借金問題解決の選択肢
自己破産ができない場合でも、別の債務整理方法を利用できます。
おすすめの債務整理方法は、「任意整理」という手段です。
任意整理は、債権者と直接話し合い、借金の利息をカットする・返済計画をリスケジュールする等の内容で合意する債務整理方法です。
実際、学生による借金は社会人よりも負債額が少ないケースが多く、任意整理をして無理なく返済してゆける場合が多くみられます。
また、保証人をつけている借金がある場合、自己破産をするとその債務額の全額が保証人に請求されることになりますが、任意整理では整理する借金を選ぶことができますから、保証人のいる債務を整理対象から外すこともできます。
また保証人のいる債務を整理対象とした場合でも、任意整理で債権者と合意した内容は保証人にも効力が及びますので(民法448条)、合意した約束を守る限りは、保証人に迷惑が及ぶことはありません。
減額後の借金はきちんと返していかなければいけませんが、学生による借金問題は任意整理で解決した方が良いケースが多いです。
[参考記事]
将来利息をカット!任意整理手続きの流れ
もっとも、この場合でも、ブラックリストには載ってしまうので、その間新たな借り入れ等ができなくなってしまうというデメリットは生じますので、注意が必要です。
5.学生の方も一度弁護士にご相談ください
いかがだったでしょうか。学生でも自己破産できるかについて解説していきました。
20歳を越えていれば、法律上、学生でも問題なく自己破産する事ができます。しかし、現実的には、任意整理をして毎月返済を続けていく形でまとまる事が多いです。
未成年者の学生が借金をしてしまった場合は、まずその取消ができないか考えてみてください。
学生で借金の事を誰に相談したらいいか分からない、親にも相談できない、という学生の方は、弁護士に一度相談してみてください。
弁護士は、相談者様の状況に応じて、適切な対応をアドバイスできます。
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